8月の終わり、雨まじりの肌寒い日。岩手県花巻市にある、丹内山(たんないさん)神社に参拝しました。
駐車場から鬱蒼とした森へ向かうと、雨のなかでも鳥居が真っ赤に光っています。
着いてすぐ、目に入るのは巨大な根株でした。大正2年に焼失したという、樹齢2000年の御神木「爺杉」の名残です。2000年という数字よりもまずその太さに思わず見入ってしまいました。
本殿の裏手には、隙間を岩に触れずに抜けられれば大願が成就する、と伝わる巨石があります。胎内石、またはアラハバキ大神の磐座。実際に抜けられるのか、アラハバキとは何者か、御朱印はどう受けるのか——順にお伝えします。
丹内山神社の胎内石をくぐると願いが叶う?
丹内山神社の境内にはラジオの音が響いていました。地元の方々が、夏祭りの準備をしている最中でした。小さなお宮がいくつも並ぶなか、順路を見ると、まず御水屋(手水舎)の後、拝殿の裏手に回るようにとの指示が。
言われた通りに裏手にまわると、胎内石が見えてきました。「触れずにくぐれたら、どんな願いも叶う」といわれる、二つに避けた大きな石。苔むした岩肌から木が生えていて、巨神兵の頭が埋まっているような姿です。幅11.6メートル、奥行き9.3メートル、高さ4.5メートル。実際に前に立つと、大きさよりもまず存在感が先に来ます。中に入って大願成就を祈ってきた人たちの気持ちが、見た瞬間に迫ってきました。

言い伝えでは、岩の隙間を壁面に触れずに通り抜けられれば、大願が成就するとされています。壁に触れてしまった場合でも、合格や成就のご利益に授かれるとも伝えられています。
胎内石の壁に触れずにくぐるには?
友人に荷物を持ってもらい、頭から入りました。
ーー見た目より幅が狭い。すぐに肩がザザッと壁に当たり、それどころか岩に挟まったような状態になりました。ありえない形に足が曲がって、ようやく光の差すほうへ抜け出しました。汚れてもいい服のほうが安心です。安産の言い伝えがありますが、妊娠中の方にはまったくおすすめしません。そしてどこにも触れずにくぐるには、入ってすぐの岩をまたぐしかないのかも……。
入るまでは少し怖さがありましたが、中の岩肌はひんやりとして、湿った土の香りがします。挟まっているのに、どこかほっとする感覚も確かにありました。胎内という呼び名を、抜けてから思い出しました。
丹内山神社の御祭神とご利益——坂上田村麻呂が参った神
胎内石にお参りしたあと、ようやく本殿に参拝します。つまり、少し傾斜のある境内の一番上の胎内石から参拝しながら下りていくのが正式な参拝順序でした。
丹内山神社の御祭神は多邇知比古神(たにちひこのかみ)。本殿は文化7年(1810年)の再建で、彫刻は名工・千葉八重郎の手によるものです。厨子とあわせて岩手県の有形文化財に指定されています。
坂上田村麻呂が延暦年間の東征の際にこの社に参籠したと伝えられ、東征ののち、この神社を睨むように同じ東和の地へ毘沙門天を祀ったとも伝えられています。ご利益として伝えられているのは、大願成就、商売繁盛、安産、受験合格、就職、家内安全、交通安全。
丹という字は、朱や水銀の採れる重要な土地に付けられたと言われます。雨のなかで鳥居があれほど赤く光って見えたのは、ただの塗料の色ではなかったのかもしれません。
丹内山神社の胎内石に祀られる、アラハバキ大神とは?
この巨石に祀られているアラハバキ大神は、『古事記』にも『日本書紀』にも名前が出てきません。それでも、1300年以上前からこの霊域の御神体として大切に祀られてきたと伝わります。
胎内石の横にあった案内板には、「坂上田村麻呂、藤原一族、物部氏、安俵小原氏、南部藩主などの崇敬が篤く領域の中心的祈願所であった」とありました。
丹内山神社の七不思議
境内には七不思議の看板が立っていて、七つとも順にたどることができました。
本殿の脇障子に彫られた唐獅子は、舐めると居眠りをしないといわれます(という不思議が不思議ですね)。建物につららが下がらない。肌石には雪が積もらない。手水鉢の水は、どんな日照りが続いても乾くことがない。境内に竹が生えない。イチョウの葉は、どんな強風でも境内の外へ散らない。そして七つめが、爺杉の幹に桐の木が生えていたという言い伝えです。
鳥居のそばで見た根株が、七不思議の最後の一つにつながっていました。順路の最初に見た場所へ最後にたどりつくようになっていて、境内をひととおり歩いてから、もう一度根株の前に戻りました。
県指定文化財があちこちに残る境内
境内で行き合った参拝の方は、もう一組だけでした。地元の方々は熱心に会場を整えていて、どこかしらですれ違うたびに一礼をくださいます。賀茂神社と八幡神社の祠の扉を開けて掃除をしているところに、ちょうど通りかかりました。御神体を拝ませていただけました。とても美しい御姿でした。
このほか、県指定文化財の平安時代末〜鎌倉初期の経塚2基とその出土品(白磁四耳壺、湖州鏡、中国古銭など)や観音堂の十一面観音、石橋の欄干の擬宝珠など、文化財がたくさん残ります。
七不思議の言い伝えと一緒に、古くから伝わるものを大切に守り伝えている、その整った空気が、境内のすみずみまで行き渡っていました。大願成就を願うというより、この場に来られた感謝のほうが大きかった。それくらい、山奥の古い歴史を感じる異空間でした。
丹内山神社へのアクセス
丹内山神社 御祭神: 多邇知比古神 住所: 岩手県花巻市東和町谷内2-303 アクセス: JR釜石線 土沢駅からタクシーで10分/釜石自動車道 東和ICから車で約15分 駐車場: あり(無料) 参拝時間: 自由(基本無人のため御朱印等は事前連絡制。小原宮司宅 0198-44-2623)

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