神倉神社は、熊野の神々が最初に降り立った場所と伝えられています。熊野速玉大社の元宮であり、権現山の南側、およそ100mの断崖絶壁に鎮座する古社です。
熊野には数多くの聖地がありますが、神倉神社は「行ってみないとわからない」とよく言われます。その理由は、圧倒的な地形と、人工物の少なさ、そして体ごと向き合わされる参拝体験にありました。
今回は実際に石段を登り、崖の上で出会ったご神体・ゴトビキ岩と、その場で感じた空気についてお伝えします。
神倉神社はなぜ「怖い」と言われるのか?
神倉神社について調べると、「怖い」という言葉が頻繁に出てきます。
本当にそんなに怖い場所なのか。そう思いながら現地を訪れると、鳥居の前には自然と立ち止まり、上を見上げる人たちの輪ができていました。
視線の先にあるのは、壁のように積み重なる石段。自然石を積み上げた急勾配の階段が、くねくねと、でも真っ直ぐに上へと続いています。少しでもふらつくと、そのまま転がり落ちてしまいそうな迫力です。「怖い」といわれる理由が、鳥居の前に立った瞬間、文句なしに伝わってきました。
入り口には上下を赤い枠で囲んだ注意書きの看板があります。
・高齢の方、足腰のバランスの悪い方、飲酒している方、小さいお子さん連れの方等は絶対に上がらないこと。
・石段の端は絶対歩かないこと。バランスをくずしたら大怪我をしますので、必ず真ん中を通ってください。
・雨の日は、特に滑りやすく危険です。カカトの高い靴や、滑りやすい靴では登れません。
伺ったのは朝でしたが、すでにたくさんの参拝の方々がいます。石段を見るなり、声を上げてさっさと引き返す人、少し登っては「無理」と引き返してくる人、「無理無理無理!」と叫ぶ人もいます……。
それでも不思議と、鳥居の前には笑いがありました。
「これは……すごいですね」「……そうですね」
見知らぬ人同士が、思わず言葉を交わしてしまいます。鳥居をくぐってからも、石段を這うように登りながらも声を掛け合ったり、すれ違いながら励まし合ったり、という光景があちこちに見られました。この一体感も、すでにご利益な感じです。
神倉神社のご祭神は?
主祭神は天照大神(あまてらすおおみかみ)と高倉下命(たかくらじのみこと)。 日本書紀には、神武天皇が神倉に登拝されたことが記されています。
熊野の神々は、まず初めに神倉山の崖の上にある「天ノ磐盾(あまのいわたて)」=ゴトビキ岩に降臨されたとされています。
もともと神倉山には社殿はなく、自然そのものを畏れ、崇める原始信仰の中心地でした。弥生時代中期の銅鐸の破片が出土していることからも、この地がいかに古くから特別な場所だったかがわかります。
後に神々を山麓へ遷し、社殿を建てたのが熊野速玉大社です。このため速玉大社は、「新宮社」と呼ばれ、神倉神社はその始まりの地として大事にされているのです。
神倉神社のご神体 ゴトビキ岩で不思議な力をいただくには?
538段ともいわれる自然石の石段を登るにつれ、空気が次第に変わっていくのを感じます。熊野古道に通じる、濃密で柔らかくも、ぴんと張り詰めた空気。
登り切った場所に手水舎があり、そこからさらに進むと、ふいに視界が開けて、遠く海まで見渡せます。そして右手に現れるのが、御神体のゴトビキ岩です。
見上げた瞬間、思わずまた声が出ました。
この高さ、この場所に、なぜこれほど巨大な岩があるのか。街を見下ろすように鎮座する姿に、「自分はいま、どこに立っているのだろう」という感覚になります。
次々に訪れる参拝者は、岩にそっと手を当て、頭を下げ、しばらく動きません。
自分も同じように手を触れてお祈りしてみました。気のせいか、岩からビリビリと微かに振動のようなものが伝わってきました。古くから地元の人たちが、こうして力をいただいてきた理由が、身体で理解できる気がしました。
神倉神社の御神木と、さりげないお導き
神倉神社の参道には「女坂」と呼ばれるゆるやかな回り道もあります。でも、下りの景色を確かめたくて、再び急な石段を下りました。
途中、すっとした佇まいのご高齢の女性が声をかけてくださいました。
「これが御神木ですよ」。
鳥居を入ってすぐの場所に立つ、大きな杉の木です。幹に手を当てさせてもらい、見上げると、まっすぐ天に伸びる幹と広がる枝から、澄んだ気配が伝わってきました。看板も説明もありませんが、こうして地元の方から静かに教えら得ること自体が、この神社らしいあり方なのだと思いました。
御朱印やお札は、熊野速玉大社でいただきます。「熊野古道のスタンプはそこで押せますから、どうぞ」。さっきの女性がそう教えてくれて、自転車を押して帰って行かれました。
神倉神社(熊野速玉大社) 御祭神 天照大神(あまてらすおおみかみ) 高倉下命(たかくらじのみこと) 住所:和歌山県新宮市神倉1-13-8 アクセス:JRきのくに線「新宮駅」から徒歩 約20分 ※御神札や御朱印は 熊野速玉大社へ(徒歩 約10分)

コメント